2007年9月6日掲載
第8回 英・米の主要放送局にみるIPTV動向概況と考察
(月刊ニューメディア2007年8月号 掲載記事)
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■多様化する配信先
PC向けサービスは、自社サイトであるか他社サイトであるかを問わずにクロスサイト展開を行い、視聴モデルとしては、広告を挿入して無料でストリーミング配信するモデルと、HDコンテンツをダウンロードさせて課金するモデルの2つになりつつある様子だ。
TV向けでは、VerizonのFiOS TVのようにケーブルテレビと同じ「回線+STB」による月額課金モデルや、ゲーム機を経由してTVで見るモデル、少し違うがPCでダウンロードしたコンテンツをAppleのiTVのようなSTBを使いTVで見るモデルなどで展開している。
モバイル向けは、米国内ではMediaFLOとMobiTVの二大勢力がすでにできあがっている様子で、モバイルでの視聴スタイルを考慮して短編にするなど専用の編成を行っているコンテンツ提供者も多い。
iPodやPSP、Zuneなどの携帯端末に向けた配信は、PC経由でダウンロードさせるモデル。また、課金という観点でいえば、AppleのiTunesがデファクトスタンダードを作った様子で、1番組単位の購入モデルの場合US$1.99という価格が標準的となってきているようである。
■鍵を握る権利処理
さて、映像の配信ビジネスでの課題は権利処理である。〔表〕からも読み取れるように英・米の主要各局はなんらかの方法で権利をクリアにし、配信ビジネスを展開しているものと思われる。一体どのように権利処理をしているのかが、大変興味深い。
現時点で、すべての番組が配信対象になっているわけではないとしても、このように相当数の番組等の配信が始まるとIPTVのメディアとしての魅力が増し、ユーザが増え、その相乗効果でマーケットの規模も広がっていくのではないか。また理想論としては、技術仕様の標準化により、導入機器と運用のコストが下がり、さらにマーケットが広がるという「正のスパイラル」を描きたい。
■小規模ローカルIPTVの可能性
ところで、〔表〕で紹介したのは英・米の主要な放送局の取り組みの状況だが、小規模・小資本でIPTVビジネスを実践している例もあるので、ここで取り上げておきたい。韓国の南東に浮かぶ済州島(チェジュ島)のKONTVがそれだ。
KONTVはインターネットを使ったPC向け映像配信サービスだが、広告モデルでビジネスとして成り立っているという。このシステムを開発した会社から概要を取材することができたので、その成功の理由を考えてみたい。
まず済州島は、その立地条件から独自の文化を育んでおり、島民の帰属意識が高いという背景がある。もちろん島民は、お互いのことを何でも知っているような村社会である。驚いたことにこの島には3つの地方紙が存在するそうで、このうちの1社の元社長が島民をターゲットにしたインターネットTVのアイデアを考案したのである。とにかく導入システムとコンテンツ制作費を極限まで落として、現地のレストラン、お店、観光地、ローカルニュース、婚礼場などから安い広告費をもらって運用できるようなモデルを作ることだった。撮影の大半はDVカメラで行い、簡易なバーチャルスタジオも活用。素材の編集機能、タイトル挿入や広告挿入機能も持ち、送信サーバまでそろえたミニ放送局として十分成り立つシステムを構築しており、運用費を極限まで抑えている。また、視聴側のPC画面も年齢層の高い人でも使えるように極力シンプルなものにしている。島という限られた空間と、島民同士の情報交流への要望がうまく作用して、このビジネスは成功しているようである。
大金をつぎ込んだ高価なシステムが必ずしも成功するわけではなく、低コストのシステム・運営を工夫して地域特性に合わせたサービスを行えば、ビジネスとして成り立つという好例としたい。
■多様な配信先に対応したコンテンツ制作
これまで見てきた流れを踏まえると、これからはテレビ内蔵のSTB機能、テレビ外付けのSTB、PC、携帯電話、携帯情報端末などのさまざまな端末で、さまざまな映像コンテンツを見る時代と捉えられる。
狭義のIPTVサービスとしては標準化を推進し、より高い技術をより低いコストで提供する枠組みを作ることが重要だ。広義のIPTVサービスとしては、さまざまな端末に向けて映像コンテンツを展開する枠組みも必要だ。
さまざまな端末に向けた展開を考えると、既に普及したプラットホームに対応する必要があったり、携帯電話など標準化されていても新しいハードウェアに対応した解像度やビットレートを新たに用意する必要があったりする。こうなれば、配信側は配信ビジネスの多角化時代に合わせて、少しでも低い経費で多様な配信先に合わせたコンテンツ作りの仕組みが重要であり、必要になっていくだろう。
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※英・米の主要放送局のIPTVビジネスへの取り組み一覧表はこちらから。
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※編集の関係上、雑誌掲載内容と少し異なる個所があります。
(コラム記事/ (株)アイ・ビー・イー 先端システム研究所 田中潤)

