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VIDEO-ITを取り巻く市場と技術

2007年11月8日掲載

第8回 世界最小TV電話の開発 後編


■HV-100の主要部分の詳細
1. 画像コーデック 
ブロックダイアグラムを図1に示します。開発期間の短縮を目指してDSPと専用LSI3種(CIF-LSI、COD-LSI、DEC-LSI)で実現することにしました。

画像コーデックのブロックダイヤグラム
※画像をクリックすると拡大します。
図1:画像コーデックのブロックダイヤグラム
3種のLSIの開発およびハード処理とソフト処理の最適分担を図ることにより、1ボード化(A4サイズ相当)を実現した。
出展:日立評論 Vol.74 No.9 (1992-9)

2. マルチメディア通信・電話制御
ブロックダイアグラムを図2に示します。ISDNユーザ・網インターフェース制御を行うI-LSI、画像・音声・データのマルチメディア多重・分離制御を行うMUX-LSI、ディジタル電話制御のI/O-LSI、さらにこれらLSIの協調とマンマシーンインターフェースを行う8ビットマイコンから構成されました。

マルチメディア通信・電話制御部のブロックダイヤグラム
図2:マルチメディア通信・電話制御部のブロックダイヤグラム
専用LSI(MUX-LSI)、汎用LSI(I-LSI、I/O-LSI)および8ビットマイクロプロセッサなどで構成する多機能インタフェースボードである。
出展:日立評論 Vol.74 No.9 (1992-9)

1990年に試作機ができあがり、「世界最小のTV電話開発」と称して1991年2月21日付けの日本経済新聞上で発表が行われ、同年11月にジュネーブで開催されたTelecom91に出品しました。

価格は散々議論した挙句、残念ながら目標には達せず95万円で発表しました。その後量産の工場に受け継がれ、改良と原価低減をはかり数年後には20万円まで下げることができました。値段を決めることは非常に難しいことです。95万円といえば車一台の値段ですから高価に違いありません。しかし「TV電話」のように新規製品はマーケットへの浸透率が読みにくく、値段を一気に下げにくいことも事実です。NTTも随分悩んでいました。結局当初はビジネスユースでテレビ会議の代替や、遠隔地間でしょっちゅう会議を必要とする業種に限定し拡販することにしました。

私は自ら力を入れたこともありデザインを非常に気にいっていました。ディスプレイが空間にあり前にせり出しています。ユーザに愛着を抱かせるデザインだと自負しています。始めは映画の「E.T.」を思い出させました。E.T.が主人公の子供と自転車に乗って空中を散歩している姿に似ています。またアップル社が2002年から発売したiMac(G4)にも非常に似ています。iMac(G4)は半球体の本体から可動アームが伸び、その先にディスプレイが接続されたオールインワンパソコンです。

私は「TV電話の作法」を考えてゆくうちに、コミュニケーションという問題を深く探求するようになり以後の生活にも大変役立つようになりました。わずかな工夫でお互い気持ち良く印象に残るコミュニケーションというものが実現できます。一方実際の人間同士が会話するのではなく、キャラクターなどの代理(身代わり)に会話させるのも面白いコミュニケーションになると考えていました。例えば「猫電話」という名称で、自分の好きな猫をあらかじめCGなどで作りTV電話に記憶させ、会話の内容に合わせ動くというものです。最近の携帯電話にはアバター機能があり、キャラクターでの会話もあります。さらにセカンドライフも登場しバーチャルの世界で現実とは違った会話や出会いを経験するものが話題を呼ぶようになってきました。コミュニケーションの方法が拡大していることを物語っているように思います。

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(コラム記事/ (株)アイ・ビー・イー 坂井 裕)

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