2005年2月号掲載
第25回 高画質を追及して進化する最新MPEG-2エンコーダチップ
DVD/HDDレコーダやPCでのテレビ録画が一般化してきた。需要の拡大に合わせてMPEG-2エンコーダLSIは進化し、“新世代”を迎えつつある。今回は、比較的最近登場した新しいMPEG-2エンコーダチップに焦点を合わせ、代表的な製品とそれらの技術トレンドを概説する。
トレンドはDVD/HDDレコーダとAVパソコン。自作PCの世界では、TVキャプチャーボードが人気である。こうした製品の中核が「MPEG-2エンコーダチップ」だ。需要の高まりに応じるように、機能、性能の面で進化を続けている。
今回は、最新MPEG-2エンコーダLSI(大規模集積回路)に着目する。大きな流れは統合化、小型化だ。MPEG-2規格が策定されたのは1996年で、当時のMPEG-2エンコーダはビデオのエンコード(圧縮)機能だけで大型(ATXマザーボードより大きいくらい)の基板を必要としていた。それが徐々に集積が進んでチップ数が減り、これまでの複数のチップで提供していた機能がついに1チップ化されるようになった。価格は昔の「数百分の1」といっても過言ではない。
さらにチップの小型化が、機器の小型化に貢献している。1チップに盛り込まれる機能はどんどん増加し、その昨日の取捨選択機能によって、チップの性格が決まってくる。TVキャプチャーボードの場合は、どのチップを使っているのかの情報をボードベンダーが提供していることも多い。MPEG-2エンコーダチップの中身にも、是非目を向けてみて欲しい。
最近のMPEG-2エンコーダチップ4種類を比較してみよう。表1には、NECの「μPD61153/61154」、Conexant Systemの「CX23415」、ViXS Systemの「XCODE II」、松下電器産業の「MN85572」の機能を示す。
MPEG規格のビデオ圧縮は、エンコードの手法については規定していない。このため、エンコーダにより、エンコード手法が異なる。当然、画質も様々だ。一般的には、新しいMPEG-2エンコーダチップは画質がよい。動作周波数が上がって複雑な処理ができるようになったり、圧縮アルゴリズムが進化したりしているからだ。
図1で分かるように、最近のMEPG-2エンコーダチップは、MPEGビデオのエンコーダだけでなく、MPEGオーディオエンコーダや、ビデオとオーディオを一体化するMPEG多重化機能も1チップに盛り込んでいるものがある。従来は、オーディオは別チップ、多重化はホストCPUで行うことが多かった。

■3次元Y/C分離回路など画質を改善する機能を搭載
画質を改善するために入力回路にも工夫を凝らしている。ノイズを減少させるノイズフィルタや、3次元Y/C分離回路など、従来は別LSIで構成していた機能が1チップに入ってきているのである。3次元Y/C分離回路は、輝度信号と色差信号を分離する際に複数のフレームを比較して、縞模様の間が虹色に見える「クロスカラー」や、輪郭部分に黒い点がでる「ドット妨害」を減少させる回路だ。
NECのμPD61153/61154は、定評のある同社の3次元Y/C分離回路を1チップに収めている。また、TBC(タイムベースコレクター)というビデオ信号の時間軸の歪みを補正する回路も搭載し、より高い画質を追及。非常に少ない部品点数でMPEG-2のエンコードを行える。
ソニーの超高機能AVパソコン「VAIO Type X」に搭載されて有名になったViXSのXCODE IIも3次元Y/C分離回路を持っている。このLSIには、さらに「トランスコード」機能が搭載されている。トランスコードは、MPEG-2データをより低いビットレートに変換する際に、映像を少し粗くしたり、チップ内部で再エンコードする機能だ。デジタル放送を受信して録画する場合などに、トランスコード機能があると、より高い画質で録画できる可能性がある。
ConexantのCX23415も高機能だ。3次元Y/C分離回路はないが、ノイズフィルタを搭載。MPEG-2のエンコーダだけでなくデコーダを1チップに集積し、さらに映像再生画面にメニューや説明を重ねて表示するためのOSD(オンスクリーンディスプレイ)機能まで持っている。図には描いていないが、このLSIにもトランスコード機能があり、MPEG-2データを再生しながら、別のビットレートのデータを作れる。デジタル放送のチューナー、レコーダなどで活躍しそうな製品だ。
松下電器のMN85572は、人気製品MN85560の後継機種と考えてよい。今回取り上げた他の製品と比べると機能の多さでは見劣りするが、画質を向上させる入力フィルタを備える。

■まだまだ先がある画質改善のテクノロジー
3次元Y/C分離やノイズフィルタは、画質を改善するための、もはや“常識的”な回路だが、画質改善のための手法はまだまだ開発が進められている。そのいくつかを簡単に解説しよう。
「AFF(適応型フィールド/フレーム)」は、テレビ信号のようなインタレース映像をエンコードする際、マクロブロックと呼ばれる正方形のエンコード単位ごとに、フレーム構造でエンコードするか、フィールド構造でエンコードするかを判断するものだ。どちらでエンコードした方が画質が上がるかを瞬時に判断する処理が必要になる。
「逆テレシネ」は、30フレーム/秒のビデオ信号を24フレーム/秒に変換する処理。映画は毎秒24フレームで、フィルムをビデオ信号に変換する際に、毎秒30フレームとなるように、同じフレームをダブらせたりするのが「テレシネ」だ。逆テレシネは、余分なフレームを取り除くことで、画質が大幅に向上する。「シーンチェンジ検出」は、シーン(場面)が変わったかどうかを検出する処理だ。MPEGでは、フレーム間の差分を検出し、共通部分は省略することで圧縮率を上げている。この方法では、同じシーンが続く時は効率が良いが、シーンチェンジがあると、差分を使わない方が画質が高くなる場合がある。

メーカー名 | NEC | Conexant Systems | ViXS System | 松下電器産業 |
---|---|---|---|---|
製品名 | μPD61153/61154 | CX23415 | XCODEU | MN85572 |
入力処理 | 3次元Y/C分離、 タイムベースコレクター、 ノイズフィルタ |
ノイズフィルタ | 3次元/C分離、 ノイズフィルタ |
フィルタ (時間軸、水平、垂直) |
レート制御 | CBR/VBR | CBR/VBR | CBR/VBR | CBR/VBR |
GOP構造 | 可変、シーチェンジ検出 | 可変、シーチェンジ検出 | 可変、シーチェンジ検出 | 可変、シーチェンジ検出 |
その他のビデオ | 逆テレシネ | 画像特徴抽出 | 逆テレシネ、AFF | 逆テレシネ、AFF |
動き検索範囲 | 最大±128 | 4画素精度最大±60〜 1画素精度最大±15 |
1/2画素精度±300 | 1/2画素精度最大±326 |
VBI抽出 | ○ | ○ | ○ | |
オーディオエンコード | Layer2 | Layer2、Dolby | Layer2、Dolby、AAC、MP3 | Layer2 |
トランスコード | ○ | ○ | ||
その他 | MPEG-4 Video ASP エンコードにも対応 |
※CBR:固定ビットレート、VBR:可変ビットレート、GOP:Iピクチャーから始まる一連のフレーム、AFF:適応型フィールド/フレーム、VBI:垂直帰線消去時間
表1 各メーカーの最近のMPEG-2エンコーダチップの機能の特徴(一部推定)。3次元Y/C分離などの付加機能は外付回路で実装する方法もあるので、1チップにそれを集積していないことが機能不足に結びつくわけではない。


※OSD:オンスクリーンディスプレイ(字幕やメニューなどの多重表示)
図1 メーカー4社のMPEG-2エンコーダチップの概要(一部推定) MPEGビデオエンコーダに加えて、最近ではMPEGオーディオエンコーダ、MPEGの多重化などの付加回路を1つのLSIに集積している。
(文/ 竹松 昇、(株)朋栄アイ・ビー・イー) ※編集の関係上、雑誌掲載内容と少し異なる個所があります。
