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VIDEO-ITを取り巻く市場と技術

2011年9月8日掲載

第35回 LTO-5とLTR-100HS (後編)

株式会社 朋栄アイ・ビー・イー 竹松 昇

LTR-100HS


(1)位置づけ

 これまで、LTOテープに保存するためにはそれなりの仕掛けが必要だった。LTOドライブは当然として、サーバー、バックアップソフトなどが必要だ。SI(システムインテグレーション)費用もかかる。また、サーバーのハードディスクを経由してLTOテープに格納したり、LTOテープの内容を取り出したりするため、LTOテープ⇔サーバー、サーバー⇔エンコード・デコード装置と2回コピーが必要となり、それなりに時間もかかってしまう問題があった。 LTO-5から前述のLong Term File System(LTFS)が利用できるようになり、特定のバックアップソフトに依存しない自由なファイルの読み書き運用が可能となった。また同一のファイルシステムを採用した装置であれば、異なる装置間でLTOテープを介してファイルのやりとりが可能となる。
 このようなLTO-5のメリット享受しつつ、D2テープなどの古いVTRテープをファイル化するアーカイブ設備を比較的安価に構築できることを目的として兜栄では「LTO-5ビデオアーカイブレコーダー LTR-100HS」を開発しており、NAB2010で参考出品展示した。LTR-100HSは、高品位のMPEG-2コーデックとLTO-5ドライブを一体化した装置で、HD/SD-SDI信号をMPEG-2 Video圧縮しMXFファイル化を行い、MXFファイルをLTO-5テープに格納することができる。また、LTO-5テープ上のMXFファイルを再生しHD/SDSDI出力することができる。

(2)LTFSと読み書き

 LTR-100HSでは前述のLong Term File System(LTFS)を採用し、VTRに近い感覚で運用できるアーカイブ装置として運用できるだけでなく、LTO-5テープに格納されたMXFファイルは、他のシステムでファイルとして読み込むことで、すぐにノンリニア編集ソフトで取り込み編集することができる。つまり、ノンリニア編集ソフトを搭載したワークステーションにLTO-5ドライブとLTFSソフトウェアを搭載することで、LTO-5上のファイルをハードディスクにコピーし即編集できる。もちろん、LAN上で共有することも可能だ(LTO上のファイルの読み書きにあたっては、シーク(頭出し)に時間がかかるため、一般にシークを多用するノンリニア編集ソフトで直接開くのは推奨できない)。
 LTR-100HSでは、入力HD/SD-SDI信号をリアルタイムでMXFファイル化すると同時にLTO-5テープに書き込む。またLTO-5テープ上のMXFファイルを読み出しながら再生しHD/SD-SDI信号を出力する。アーカイブ時にいったんハードディスク上にファイルを作成した後でLTO-5テープに書き込んだり、LTO-5テープからハードディスクに読み出してから再生したりする手間が省ける。LTR-100HSのキャッシュ上にある映像・音声のデータに対しては、ジョグ・シャトルを使ったトリック再生やタイムコード指定による頭だしも可能だ。

(3)互換性

 LTR-100HSが作成・再生するMXFファイルは互換性と画質・ファイルサイズなどを考慮し、映像コーデックにMPEG-2 4:2:2 Long GOPを採用し、ファイル形式は汎用性の高いOP-1a形式のMXFファイルとした。汎用性の高いMXFファイルとすることで、さまざまなソフトウェアやハードウェアと連携運用できる。アーカイブの手間を減らすだけでなく、再利用する際の手間や変換を不要にすることで、運用コストも含めたシステムとしてのトータルな費用を削減し、使い勝手を良くすることを狙っている。なお、MXFファイルにはフレーム単位でタイムコードを格納できるため、不連続な場合も含め、元のVTRテープのタイムコードをそのまま引き継ぐこともできる。プロキシ映像ファイルも同時に作成され、LTO-5テープに格納されるほか、素材管理データベースなどに向けて出力できる。
 MXF、MPEG-2、LTO-5、LTFSなど、LTR-100HSでは極力オープン技術を採用している。アーカイブ用途の場合、長期間にわたり運用が可能な汎用性の高い技術を採用すべき、という考えに基づくものだ。オープン技術かつ普及しつつある技術を採用しているため、特定のベンダーに依存せずに多用途に利用できるファイルを蓄積していくことができる。

(4)収録時にVTRを自動制御

 LTR-100HSには、RS-422 9pinインターフェースを使い、外部の業務用VTRを自動制御する機能を標準装備している。IN点、OUT点を指定すると、業務用VTRを自動制御し、フレーム精度で指定範囲をファイル化する。LTR-100HSと業務用VTRを用意し、両者を接続するだけでアーカイブシステムを構築できるわけだ。場所を選ばないし、万一の故障の際も簡単に機材を交換できる。
 業務用VTRを自動制御する他、SDI信号のエンベッドタイムコードによる待ち受け収録も可能だ。この場合も、IN点、OUT点を指定することで、フレーム制度でファイル化できる。

(5)豊富な入出力

 LTR-100HSには、SDI入出力の他、AES入出力、LTC入出力を装備している。また、SDI出力4系統のうち2系統はタイムコードオーバーレイつきの出力だ。また、ギガビットイーサネット、USB 2.0端子といったシステム拡張のためのインターフェースも持つ。豊富な機能を3RUハーフラックサイズの小型筐体に納めた。片手で持てる大きさ・重さである。
 SDI信号経由のベースバンド入出力以外に、ファイルの入出力機能も持つ。LTR-100HSはFTPサーバーとして動作する。FTPクライアントを接続することで、MXFファイルのみならず、任意のファイルをLTOテープ上に書き込んだり、LTOテープから読み出したりすることができる。

(6)メタデータ連携・MediaConcierge

 LTR-100HSでは、簡単なメタデータを格納することもできる他、素材管理データベースとの連携も考慮した設計とした。プロキシ映像ファイルとメタデータのみを素材管理データベースシステムに送り込み、SD/HD映像はLTO-5テープで棚置き管理することができる。素材管理データベースでメタデータを追加するなどして、棚置きしたLTO-5テープ内の映像を素材管理データベースシステムで検索確認できる(図5)。
 LTR-100HSが対応する素材管理データベースとして、朋栄のMediaConciergeがある。MediaConciergeは、MXFファイルに対応した映像素材を管理するためのシステムだ。MXFファイルの管理や検索だけでなく、オプションでMXFファイルの変換機能なども持つ。

図5. LTR-100HSを使った小規模アーカイブのワークフロー。
単体での運用も可能だが、素材管理データベースと連携することで、棚管理ながら検索が容易なシステムを構築できる。



終わりに

 コスト削減要求が厳しくなる中、より低いコストで映像資産をどう継承していくか?という命題に対する一つの回答としてLTR-100HSを開発している。小規模なアーカイブシステムを構築する際の選択肢の一つとして検討していただけることを期待している。


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(文/ 竹松 昇、(株)朋栄アイ・ビー・イー)
※本コラムは、放送技術 2010年8月号に掲載された「LTO-5 ビデオアーカイブレコーダー LTR-100HS」を
改題、一部変更・抜粋したものです。編集の関係上、雑誌掲載内容と少し異なる個所があります。

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