2011年9月2日掲載
第34回 LTO-5とLTR-100HS (前編)
株式会社 朋栄アイ・ビー・イー 竹松 昇
LTO-5
(2)特長
LTO-5(図2)は、約10cm角のテープ1本で1.5TB(非圧縮時)の容量を持つ。1.5TBあると、50Mbpsで約50時間、100Mbpsで約25時間に相当する映像ファイルを格納できる。保管に必要なスペースの観点で、LTO-5はD2テープと比較して最大1/200のスペース削減(*)が見込める。LTOのテープ幅は1/2インチだが、従来のVTRとは記録方式が大きく異なる。VTRは、一般にヘッドを斜めにすることでテープ速度よりヘッド速度を高速にするヘリカルスキャン方式を採用しているが、LTOの場合、ヘッドは傾けずにテープの進行方向に対して垂直で、複数トラックを同時に読み書きする。このヘッドは上下に移動する。テープの端まできたら、ヘッドを上下に移動し、続きを逆方向に読み書きする。LTO-5の場合、16トラックを一度に読み書きし、上下に80段階移動するので、合計1,280トラック存在する(図3)。テープの長さは846mあるが、テープを往復しながら読み書きするので、最後に記録したデータがテープの終わりにあるとは限らない。
もう一点、VTRと大きく異なる点は、カートリッジ(カセット)が1スピンドルという点だ。テープ自体にはリールが1つしかなく、LTOカートリッジをLTOドライブに挿入すると、LTOドライブはLTOカートリッジからテープを引き出し、LTOドライブの中にあるリールにテープを巻きつける(図4)。LTOカートリッジが1スピンドルのため、LTOカートリッジは小型で場所をとらないメリットがある。反面、LTOカートリッジをLTOドライブから抜く場合、テープをすべて巻き戻す必要がある。VTRのように巻き戻さずにテープを取り出すといったことはできない。アーカイブ用メディアとして考えると、巻き戻すための1〜3分程度の時間より、保管に必要なスペースが小さくて済む方が重要とも言える。
LTOは、部分的な書き換え、つまりVTRのインサート編集に相当する処理ができない。このため、追記するか、テープの先頭から全体を上書きするかしかできない。現実の運用では、削除・更新できないと不便なこともあるので、次ページに後述するLong Term File Systemでは、見かけ上、削除・更新できるように工夫されている。
(*) D2-MカセットとLTO5テープを比較すると、格納時間が33.333…倍となりテープケースの体積が約1/6である。両方を考慮すると(1/33.333…)×(1/6)=1/200となる。
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図2. LTOテープ |
図3. LTO-5におけるトラックの記録方式 |
図4. LTOドライブ内テープ走行 |
(3)信頼性・寿命
LTOはデータ保存用として開発されてきており、信頼性を高めるためにいろいろ工夫されている。たとえば、書き込みヘッドの横に読み出しヘッドがついていて、書き込んだデータをすぐに読み込み、100%確実に書き込まれたかどうかをリアルタイムに確認する。また、強力なエラー訂正アルゴリズムが内蔵されている。LTOテープの寿命について、(社)電子情報技術産業協会(JEITA)テープストレージ専門委員会の資料によると、25℃で19年程度は安定に保管できるとされている。また、テープテンションが低いことやバックコートにより、テープ保管期間中のテープの巻き直しは不要とされている。
LTOは約3年ごとに世代をあげる形で技術開発が続いており、最近、非圧縮時容量12.8TBのLTO-8までの構想が発表された。2世代前のテープの読み込みができ、1世代前のテープは読み書きができるという基本ルールとなっているので、現在のLTO-5のテープは将来のLTO-7ドライブで読むことができる。LTO-7対応製品が仮に2016〜2017年に発売されるとして、そこから約5〜6年間の間にLTO-5テープの内容をLTO-7テープにコピーする必要がある。このコピーは自動化可能で、100%正しくコピーできていることは自動検査できるので、テープのダビングと比較すると、人件費をかなり低く抑えることができる。
(4)速度・コスト
LTOの特長の一つに、読み書きの速度があげられる。LTO-5の場合、ドライブの性能としては140MB/秒、つまり1,120Mbpsで読み書きが可能だ。ファイルベースのワークフローを考える上でコピーが実時間以下で行えることが重要となるが、非圧縮フルHDは無理として、多くの圧縮映像では十分な速度と考えられる。ただし、実際の速度はドライブ以外、対峙するハードディスクやLANなどさまざまな要因の組み合わせとなる点に留意が必要だ。
アーカイブに必要なコストという観点で、メディアの価格についてみると、LTO-5メディアの価格は、この記事の執筆時点で15,000円〜13,000円程度である。1GBあたりの価格は約10円で、アーカイブ用のメディアの価格としては、もっとも安価である。
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(文/ 竹松 昇、(株)朋栄アイ・ビー・イー)
※本コラムは、放送技術 2010年8月号に掲載された「LTO-5 ビデオアーカイブレコーダー LTR-100HS」を
改題、一部変更・抜粋したものです。編集の関係上、雑誌掲載内容と少し異なる個所があります。

